近年、SNSやネットニュースでも頻繁に目にするようになった「退職代行」。
上司への退職の申し出が怖い、精神的にもう出社できない…といった理由から、第三者に「退職の意思」を伝えてもらうこのサービスは、特に若い世代を中心に利用が広がっています。
しかし、退職代行に関する情報を調べていると、よく目にするのが「非弁行為(ひべんこうい)」というキーワード。
「なんか違法ってこと?」
「使っちゃダメなの?」
「どこまでがOKなのか正直わからない…」
そんな疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?
実はこの「非弁行為」、退職代行の“合法か違法か”を分ける非常に重要なポイントです。
知らずに利用すると、思わぬトラブルや法的リスクに巻き込まれてしまう可能性もあります。
そこで本記事では、「非弁行為ってそもそも何?」という基本から、退職代行との関係、リスク回避のポイントまでを、できるだけわかりやすく解説していきます。
退職代行を安心して使いたい方や、すでに利用を検討している方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください!
そもそも「非弁行為」とは?
「非弁行為(ひべんこうい)」とは、弁護士以外の人が、報酬を得る目的で、法律業務を行うことを指します。
これは弁護士法72条という法律によって、はっきりと禁止されています。
弁護士法第72条とは?
まず、実際の条文をざっくり噛み砕いて説明すると、
「弁護士でない者は、報酬を得る目的で法律事務(法律に関する交渉や手続きなど)をしてはいけないよ」
という内容になります。
どこまでが合法?どこからが違法?
ここで大事なのは、「法律事務」って具体的に何を指すのか、という点です。
たとえば以下のような行為は、弁護士以外の人がやると非弁行為になる可能性があります。
| 行為の内容 | 弁護士以外が行うと非弁行為? |
|---|---|
| 退職の意思を伝えるだけ | 原則OK(グレーではある) |
| 会社と「退職条件」の交渉をする | 非弁行為の可能性あり |
| 有給消化の交渉 | 非弁行為の可能性あり |
| 残業代や慰謝料の請求交渉 | 完全に非弁行為 |
つまり、「退職します」と伝えるだけならセーフだけど、
“交渉”や“請求”などの対話で条件を動かす行為はアウトというわけです。
なぜこんなルールがあるの?
弁護士法の目的は、「国民の権利を守るため、法律に関する専門家である弁護士だけが交渉などを行えるようにする」ことです。
逆に言えば、素人が間違った判断で交渉に入ると、利用者が不利になってしまうリスクがあるため、あえて制限が設けられているのです。
要するに、「退職代行」は一見シンプルなサービスに見えますが、
“誰がどこまでやってくれるか”によって合法か違法かが分かれる、非常にデリケートなサービスでもあるということですね。
退職代行サービスと非弁行為の関係
退職代行サービスと一口に言っても、実は「どこまでやってくれるか」は業者によってかなり違います。
ここでは、実際のサービス内容と非弁行為の関係をわかりやすく整理していきましょう。
弁護士以外ができること・できないこと
まず、弁護士ではない民間の退職代行業者が「できること」と「できないこと」は以下のように分けられます。
| 業務内容 | 弁護士以外の業者(民間) | 弁護士が対応する場合 |
|---|---|---|
| 本人の退職意思を伝える | ◎(基本的にOK) | ◎ |
| 退職届の提出サポート | ◎ | ◎ |
| 有給休暇の取得交渉 | ❌(非弁行為の可能性あり) | ◎ |
| 会社と直接交渉(引き止め対策、日程調整など) | ❌ | ◎ |
| 残業代・退職金・慰謝料の請求 | ❌(完全に非弁行為) | ◎ |
つまり、「伝言係」として退職の意思を伝えるだけなら弁護士以外でも対応可能。
でも、会社との交渉や法的請求に入ると、弁護士でないとNGとなるんですね。
退職代行の“グレーゾーン”とは?
ここが少しややこしいところですが、
民間業者の中には、「交渉には入らない」としながらも、実質的には交渉のような伝え方をする業者も存在します。
たとえば…
- 「○○さんは有給をすべて消化したいと考えています」
- 「○月○日が最終出社になるよう調整希望です」
これらは一見「伝達」に見えますが、相手企業の受け取り方によっては“交渉”と捉えられる場合があるため、グレーゾーンになりがちです。
実際に問題になったケースも
過去には、弁護士資格を持たない退職代行業者が交渉を行い、
「非弁行為に当たる」として業務停止命令を受けたケースも報道されています。
そのため、もし業者が“交渉も全部やりますよ”と簡単に言ってくるようであれば、
逆に危ない業者かもしれません。
弁護士が対応する場合の安心感
一方、弁護士が直接運営または関与している退職代行サービスであれば、
交渉も法的請求もすべて対応可能。たとえば、
- 未払い残業代の請求
- 有給取得の強い主張
- 会社との書面でのやりとりの代行
など、トラブルの芽を事前に摘む対応が可能です。
退職代行を選ぶ際には、「価格」や「スピード」だけでなく、
“どこまで対応してくれるか”と“それが合法か”をしっかり見極めることが、安心・安全な退職につながります。
非弁行為のリスク
退職代行サービスを選ぶうえで、「非弁行為かどうか」は単なる法律の話ではありません。
実は、利用者自身がリスクを背負ってしまう可能性があるという、かなり実用的で重要なポイントです。
この章では、非弁行為に手を出してしまった場合に、依頼者側・業者側に起こりうるトラブルを具体的に解説していきます。
依頼者が巻き込まれるトラブル
① 会社との交渉が無効になる可能性
弁護士資格のない業者が行った交渉行為は、法的には無効とされる可能性があります。
たとえば、「有給取得を代わりに交渉してくれた」と思っていたのに、
後から「そんな約束はしていない」と会社側に言われ、有給を消化できないまま退職…なんてケースも。
② 退職手続きがスムーズに進まない
交渉が非弁行為に該当することで、会社がその業者とのやりとり自体を拒否するケースもあります。
すると、結局自分が再度会社に連絡する羽目になり、精神的負担が倍増してしまうことに…。
③ トラブルが起きても法的サポートが受けられない
非弁行為をする業者は、そもそも法的な代理権がありません。
何か問題が起きても、「そこまでは対応できません」と言われて泣き寝入りせざるを得ないこともあります。
業者側に科されるペナルティ
① 弁護士法違反として摘発されるリスク
弁護士法違反(非弁行為)を行った業者は、刑事罰の対象になることがあります。
実際に、過去には業務停止命令を受けた代行業者も存在しています。
② 信用失墜 → サービス停止の可能性も
摘発されなくても、「あの業者は非弁行為をしていた」とSNSで拡散されるだけで、一気に信用が失われ、運営継続が難しくなることも。
そんな業者に依頼してしまえば、利用者もその“巻き添え”になりかねません。
「バレなければOK」では済まされない
一部の業者や利用者の中には、「別にバレなければいいでしょ」と軽く考えている人もいます。
でも、現実には、
- 会社が弁護士を立ててきた
- 業者の対応内容が録音・記録されていた
- 労働局などに相談された
など、表沙汰になるケースは普通に起こっています。
その時に「知らなかった」では済まされませんし、信頼できない業者を使った自分に責任が返ってくることもあります。
つまり、非弁行為は“業者だけの問題”ではなく、依頼者にもリスクが降りかかる問題なのです。
退職という人生の節目だからこそ、最後までトラブルなく終わらせたいですよね。
安全に退職代行を使うには?
「退職代行、使いたいけど、非弁行為が怖い…」
そんな方のために、安心して退職代行サービスを選ぶためのチェックポイントをこの章でしっかりお伝えします。
まずは“誰が運営しているか”を確認しよう
退職代行サービスには、大きく3つのタイプがあります。
| タイプ | 誰が運営している? | 法的な交渉が可能? |
|---|---|---|
| 民間業者 | 企業・個人 | ❌ 非弁行為の恐れあり |
| 労働組合系 | 労働組合 | △ 団体交渉に限り可能 |
| 弁護士事務所 | 弁護士 | ◎ すべて合法的に対応可能 |
それぞれの特徴
- 民間業者:料金は安いが、できることが限られている
- 労働組合系:団体交渉はできるが、法的請求は不可
- 弁護士事務所:料金はやや高めだが、法的対応までフルサポート
最初からトラブルが予想される場合や、未払い残業代の請求をしたいと考えている方は、弁護士系のサービス一択です。
行政書士と弁護士の違いにも注意!
意外と見落とされがちなのが「行政書士が関わっているから安心」と勘違いするケース。
行政書士は書類作成の専門家ではありますが、交渉や代理行為は一切できません。
なので、「行政書士監修」などと書かれていても、非弁行為リスクを回避できているわけではない点には注意が必要です。
信頼できる退職代行サービスを見分けるチェックポイント
以下のような点を意識すると、安心して選びやすくなります。
退職代行業者選びチェックリスト(非弁行為)
- 弁護士または弁護士法人が運営しているか?
- 「交渉」や「請求」に関する記述が明確にあるか?
- 料金が極端に安すぎないか?(安すぎるのは非弁のリスクあり)
- 問い合わせ時の対応が丁寧・的確か?
- 実績・口コミが一定数あり、悪評が少ないか?
特に、「どこまで対応してくれるか」を明確に説明してくれるかどうかは非常に重要。
“なんとなく安心そう”ではなく、“合法的に対応してくれるか”を軸に選びましょう。
不安なら無料相談を活用しよう
最近は、多くの退職代行サービスがLINEや電話での無料相談を受け付けています。
事前に「有給の交渉もお願いできますか?」など、非弁行為になりやすいポイントを質問して反応を確認してみるのがおすすめです。
安全に、確実に退職したいなら、「値段の安さ」より「法的な安心感」を優先するのが後悔しない選択です。
“非弁行為”の境界を曖昧にする新しいサービス形態とは?
これまでの章では、「非弁行為=NG」「弁護士なら安心」と、はっきりとした線引きがありました。
でも最近では、その“線”自体がグラデーションになりつつあるのをご存じでしょうか?
これはまさに、技術とサービス設計の進化によって、退職代行が単なる“伝達代行”から“ユーザー支援型”へ進化していることを意味します。
非弁行為の“境界”が揺らぐサービスの実態
最近増えているのが、以下のような「グレーでもない、でもブラックでもない」退職支援スタイルです。
伴走型支援サービスの特徴
- LINEやチャットで相談・アドバイスを行う
- 法的な書類はテンプレート提供で本人に記入させる
- 相手企業とのやりとりは“本人名義”で送るようサポートする
- 請求書なども「こう書くと効果的です」と伝えるに留める
つまり、代行はしないけれど、本人がうまく動けるよう“後ろから支援する”というスタイルです。
この方式なら、弁護士でなくてもギリギリ非弁行為に当たらないことが多く、
かつ利用者側も「自分でやってる感覚」が持てて安心感がある、という声もあります。
テクノロジーが“境界”を再定義する?
さらに最近では、AIチャットボットや自動送信システムなどを使って、「人が関わらずに伝える」という工夫も出てきています。
- 書類の自動作成(AI記入補助)
- チャットによる会社との自動やりとり(※本人名義で)
- 対応パターンに応じたテンプレ選択機能
こうなると、もはや「誰がやったか」ではなく「どんな仕組みでやったか」が重要になってくるんですよね。
非弁行為の定義も、テクノロジーの前では古くさく感じられる場面が出てきています。
ユーザー視点で考える“本当のリスク”
とはいえ、どんなに工夫されていても、利用者が「丸投げすればOK」と思ってしまう設計であれば、それは危ういです。
例えば、
- 「自分は何もしなくていいんだ」と思っていたら、途中で対応を迫られパニックに
- AIが自動送信した内容が相手企業を逆なでして、トラブルが悪化
…などのケースも十分にあり得ます。
結局のところ、サービスがどれだけ進化しても、「自分の退職」という人生の重大イベントに対して“無関心”になってしまうことこそが最大のリスクなのかもしれません。
退職代行はこれからも進化します。
法律とテクノロジーの“隙間”をつくサービスも増えていくでしょう。
でも最終的には、
「このサービス、自分の味方になってくれるか?」
「何かあったときに責任を持ってくれるか?」
という“人”としての信頼性が最も重要になるはずです。
まとめ
退職代行サービスは、「会社を辞めたいのに言えない」「精神的にもう限界」と感じている人にとって、まさに“救いの手”となる存在です。
でもその一方で、「非弁行為」という見えにくいリスクが存在するのも事実。
安易に選んでしまうと、自分自身がトラブルに巻き込まれる可能性すらあるのです。
ポイントをおさらい
- 非弁行為とは、弁護士以外の者が報酬を得る目的で法律業務を行うこと(弁護士法違反)。
- 民間の退職代行業者が「交渉」や「請求」に踏み込むと、非弁行為に該当する可能性が高い。
- 非弁行為が発覚すると、業者だけでなく、利用者にも実害が及ぶ可能性がある。
- 安心して使うためには、運営主体が誰か(弁護士か否か)をしっかり確認することが重要。
- 最近では、AIや支援型サポートを活用した「グレーでないグレー」なサービスも増加中。
- “丸投げ”ではなく、自分の意思と理解を持って選ぶことが、最も安全で後悔のない退職につながる。
安さよりも「安心感」を
確かに、弁護士が運営する退職代行は費用が高めに感じるかもしれません。
でも、もしそこでトラブルになったら…?
追加で弁護士に相談する時間も費用も、結局もっと高くつくかもしれません。
だからこそ、最初から安心できるサービスを選ぶことが、最終的にコスパも良く、気持ちよく次の一歩を踏み出せる近道です。
この記事を読んで、「非弁行為ってそういうことだったのか!」とスッキリできたら嬉しいです。
退職という人生の大きな節目が、あなたにとって納得できる、前向きなスタートになりますように。



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